労働者派遣法に違反する行為とは|代表例や罰則、注意点について解説

派遣業を行う場合、「労働者派遣法」を順守しなければなりません。

しかし労働者派遣法は幾度かの改正を経ており、過去には問題なかったものの、今では違反となってしまう行為も存在します。

そこでこの記事では、派遣業を行う企業(派遣元企業)のために、労働者派遣法に違反する行為の代表例や、違反時の罰則、注意点について解説します。派遣業を適切に営むためにも、ぜひ参考にしてみてください。

労働者派遣法とは

まずは労働者派遣法について解説します。

そもそも労働者派遣事業(派遣業)とは「派遣元事業主が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために労働に従事させることを業として行うこと」とされています。(参考:厚生労働省

派遣労働者を雇用しているのは「派遣元」です。しかし派遣労働者に指揮命令するのは「派遣先」の企業であり、少し複雑な関係となっています。結果として派遣労働者は、単純な会社員と比べると、権利が不安定になりやすいのです。

そこで派遣労働者を保護するための法律が作られました。それが「労働者派遣法(派遣法)」です。

派遣元企業・派遣先企業は、どちらも派遣法を順守しなければなりません。もし違反すると、罰則・行政処分が科せられることもあるため注意しましょう。

よくある違反行為の例

派遣先企業がとくに注意すべき違反行為としては、次の8つの例が挙げられます。

  • 無許可での労働者派遣
  • 派遣事業者の名義貸し行為
  • 就業条件等を明示しない派遣
  • 二重派遣
  • 禁止業務への派遣
  • 30日以内の日雇派遣
  • 派遣可能期間の制限を超えた派遣
  • 派遣先企業からの選別・指定による派遣(派遣社員の特定行為)
  • 離職後1年以内の元社員を派遣

それぞれ詳しく見ていきましょう。

無許可での労働者派遣

まず、派遣業を行うためには「許可」を受けなければなりません。

かつては特定派遣事業(届出制)と一般派遣事業(許可制)の区分が存在しましたが、平成27年9月30日の労働者派遣法改正により、いまでは「許可制」に一本化されています。

許可制への一本化に伴い、労働者派遣事業の許可基準もかつてと比べると厳しくなりました。(許可申請を却下される企業が改正前より増えています)

もちろん、許可条件を満たすために嘘の申告をするなど、不正行為により許可を更新することも認められません。

派遣業を営むためには、しっかりと許可を受けましょう。

派遣事業者の名義貸し行為

自社で受けた許可を第三者に貸す行為、いわゆる「名義貸し」も禁止されています。

名義貸しした事業者は事業停止や許可の取消など重い処分を受ける可能性もあるため、絶対にやめましょう。

就業条件等を明示しない派遣

派遣元事業主は、派遣労働者に対して就業条件等を明示しなければならないとされています。

就業条件で明示しなければならない主な項目例は次のとおりです。

  • 業務内容
  • 業務に伴う責任の程度
  • 派遣先企業の名称・所在地
  • 就業場所・組織単位・指揮命令者
  • 派遣期間・就業する日
  • 就業時間(就業開始時刻、終了時刻、休憩時間)
  • 派遣労働者からの苦情処理に関する事項
  • 派遣元責任者・派遣先責任者
  • 労働者派遣に関する料金

参考:就業条件明示書 記入例|厚生労働省

これら就業条件等を明示しない派遣は禁止されているため注意しましょう。

なお、派遣社員が従事する業務については、派遣元と派遣先が結ぶ”労働者派遣契約書”にも記載されます。この契約書に記載のない業務について派遣社員を従事させることはできないため、この点にも注意してください。

二重派遣

派遣された派遣社員を、派遣先がさらに別企業に再派遣する行為、いわゆる「二重派遣」も禁止されています。二重派遣が認められると、派遣労働者の権利・雇用の安定性が脅かされるためです。

IT業界で二重派遣が問題となった事例もありますが、他業界でも注意してください。

禁止業務への派遣

派遣業は、すべての業種への派遣が認められているわけではありません。

まず、下記の業務は「適用除外業務」とされ、労働者派遣事業を行うことができません。

  • 港湾運送業務
  • 建設業務
  • 警備業務
  • 病院等における医療関係業務(一部条件あり)

ただし医療関連業務については、業務内容・場所によって派遣が認められているものもあります。

また、弁護士、司法書士、土地家屋調査士の業務についても、労働者派遣は禁止です。公認会計士、税理士、弁理士、社会保険労務士、行政書士についても、それぞれ一部の業務を除いて派遣が禁止されています。さらに建築士事務所の管理建築士の業務にも派遣できません。

たとえ業務そのものが適法であっても、同盟罷業(ストライキ)や作業所閉鎖(ロックアウト)が発生している事業所への派遣や、公衆衛生・公衆道徳の観点から有害な業務に付かせる目的での派遣も禁止されています。

このように、派遣が禁止されている業務は決して少なくありません。無意識に違反しないよう、しっかりと把握しておきましょう。

参考:労働者派遣事業を行うことができない業務|厚生労働省

30日以内の日雇派遣

派遣労働者の雇用の不安定さが問題視されたため、2012年の法改正以降、働く期間が30日以内となる「日雇い派遣」も原則として禁止されています。

ただし例外的に、下記の条件を満たす方は日雇い派遣も認められています。

  • 60歳以上の方
  • 学生(昼間学生)
  • 副業従事者(主たる生計者でない方)
  • 世帯収入が500万円以上で、主たる生計者でない方

また下記のような、日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務も、例外業務として日雇い派遣が認められています。

  • ソフトウェア開発
  • 機械設計
  • 通訳、翻訳、速記
  • ほか複数業務

どのような条件を満たせば日雇い派遣が可能なのかしっかり把握し、違反しないように気をつけましょう。

参考:知っておきたい改正労働者派遣法のポイント|厚生労働省

派遣可能期間の制限を超えた派遣

派遣労働者が「同一の派遣先企業」や「同一の部署」で働ける期間は、最長3年間とされています。この期間を超えて、ある労働者を同じ組織へ派遣することはできません。なお、この期間は延長できないことも覚えておきましょう。(ただし同じ社員が同一事業所内の異なる部課へ移動した場合、個人単位の期間制限はリセットされ、あらたに3年間働くことも可能です)

一方、派遣法では事業所単位でも派遣期間の上限が定められています。事業所が派遣社員を受け入れられる期間は、原則として最長3年です。これは個々の派遣社員を受け入れる上限ではなく、ある事業所が”派遣社員”を受け入れる際に適用される上限です。つまり最初の派遣社員との契約が終了し、後任が来た場合、最初の派遣社員が就業開始した日が期間制限の「起算日」とされます。そして事業所単位の期間制限は、条件を満たせば延長することも可能です。

個人単位、事業所単位の期間制限は、どちらも最長3年とされています。しかし個人単位は延長できず、事業所単位は延長できることには注意しなければなりません。

派遣先企業からの選別・指定による派遣(派遣社員の特定行為)

派遣先企業が事前に派遣してもらいたい社員を指名・選別する行為も禁止されています。

もし派遣先企業があらかじめ労働者を選別する場合、実質的に「派遣先」と「派遣労働者」の間に雇用関係があることになってしまうためです。(つまり職業安定法が禁止している労働者供給事業に該当してしまいます)

このような派遣先企業が事前に派遣社員を指名・選別する行為は、「特定行為」と呼ばれています。派遣元企業に禁止されている具体的な行為は次のとおりです。

  • 派遣社員の履歴書を提出させる
  • 派遣社員に面接・適性検査を実施する
  • 年齢・性別を特定する
  • 業務に無関係の情報を聞く

なお、業務に必要なスキル・資格などを、派遣先企業から派遣元企業に伝えることは問題ないとされています。派遣社員の希望に基づく職場見学なども問題ありません。さらに、一定の派遣期間が経過したら社員として直接雇用する予定となっている場合には、派遣時の面接・適性検査が許可されています。

どのような行為が「特定行為」として禁止されているか、派遣元企業もしっかりと把握しておきましょう。

離職後1年以内の元社員を派遣

派遣業が常用雇用の代替とならないよう、派遣先を退職してから1年以内の元社員については、当該企業で派遣社員として働くことはできません。

この「派遣先」は事業所単位ではなく法人単位であることにも注意してください。たとえば、A株式会社のX事業所で勤務していた方を、退職後1年以内に同じくA会社のY事業所へ派遣することも禁止されています。

ただし60歳以上の定年退職者については、退職から1年経過前であっても同一法人で派遣社員として働くことが可能です。

労働者派遣法に違反した場合の罰則・行政処分

さて、ここまで紹介した各種規定に抵触した場合、罰金・許可の取り消しなどのペナルティを受けることがあります。労働者派遣法に違反した場合の罰則・行政処分についても、詳しく見ていきましょう。

懲役又は罰金

違反した内容に応じ、事業者に懲役又は罰金が科せられることがあります。いくつか例を見てみましょう。

適用除外業務について労働者派遣事業を行った者(第4条第1項) 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金
厚生労働大臣の許可を受けないで一般労働者派遣事業を行った者(第5条第1項)
一般労働者派遣事業の許可・許可の有効期間の更新の申請書、事業計画書等の書類に虚偽の記載をして提出した者(第5条第2項又は 第3項) 30万円以下の罰金
労働者派遣をしようとする場合に、あらかじめ、当該派遣労働者に就業条件等の明示を行わなかった者(第34条)
労働者派遣の役務の提供を受ける期間の制限に抵触することとなる最初の日以降継続して労働者派遣を行った者(第35条の2第1項)
 特定派遣元事業主の名義をもって、他人に特定労働者派遣事業を行わせた者(第22条) 6月以下の懲役又は30万円以下の罰金

参考:第13 違法行為による罰則、行政処分及び勧告・公表|厚生労働省(カッコ内は罰則適用条項)

ここまで紹介してきた違反事例に該当してしまった場合、このような刑罰の対象となることは知っておきましょう。

業務改善命令

刑事罰とは別に、行政処分が下されることもあります。まず検討されるのが、業務改善命令です。

派遣元事業主が労働者派遣事業に関して各種法令に違反し、適正な派遣就業を確保するために必要があると認められる場合、「派遣労働者に係る雇用管理の方法の改善」「その他当該労働者派遣事業の運営を改善」を図るために、厚生労働大臣は業務改善命令を下せるものとされています。

改善命令は違法行為そのものの是正を図るものではなく、法違反を起こすような雇用管理体制や、その他の労働者派遣事業の運営方法そのものの改善を目的としています。さらに厳しい処分を受けないようにするためにも、しっかりと改善することが重要です。

事業停止命令

各種法令・処分に違反した場合や、許可条件に違反した場合で、許可の取り消しをするほどではない場合、事業停止命令が下されます。

これは一定の懲戒的な意味があることはもちろん、当該停止期間中に事業運営方法の改善を図ることも目的とされています。

許可の取り消し

行政処分の中で最も重い処罰が許可の取り消しです。

各種法令・処分に違反した場合や、許可の欠格事由に該当する場合など、一般労働派遣事業を続けさせることが適当でないと判断された場合に下されます。

複数の事業所がある派遣元企業の場合、すべての事業所が許可の取り消し対象となり、営業を続けることができません。

派遣業を行う上での注意点

ここまで紹介した各種違反事例とあわせて、派遣業を行う上で注意すべきポイントを2つ紹介します。

  • ハローワークなどへの相談者に対して不利益な取扱いをしてはならない
  • 厚生労働大臣による改善命令には従う

それぞれ詳しく見ていきましょう。

ハローワークなどへの相談者に対して不利益な取扱いをしてはならない

派遣労働者はハローワークなどに対して、自身が問題視したことが派遣法違反かどうか相談(通報)できるとされています。そして相談内容が派遣法に違反している場合、ハローワークはその事実を厚生労働大臣に申告できます。

この結果、派遣元事業が何らかの処分を下されるかもしれません。しかし派遣元企業は、このようなハローワークなどへの相談者に対して不利益な取扱いをしてはならないとも定められています。

もし相談者に不利益な扱いをすると、それを理由にさらなる処分が下される可能性もあるため注意してください。

厚生労働大臣による改善命令には従う

何らかの違反行為があった場合、厚生労働大臣から改善命令が下されることもあります。そして、この改善命令に従わないと、派遣業の許可を取り消される可能性が高いことは覚えておきましょう。

先述したとおり、もし許可の取り消しを受けると、違反行為をしていなかった事業所でも営業ができなくなってしまいます。改善命令は業務運営を見直すきっかけと捉え、しっかり従うことが重要です。

派遣業を行う企業は社会保険労務士との顧問契約がおすすめ

派遣事業者が守るべき事項は多岐にわたり、法改正によって新たに守るべきルールも増えていることから、知らず知らずのうちに違反行為をしてしまっていることもあるかもしれません。

派遣法はもちろん、その他の法令も遵守して派遣事業を運営するためにも、ぜひ社会保険労務士との顧問契約を検討してみてください。社会保険労務士のアドバイスを受けながら運営することで、罰則・行政処分を受けるリスクを最小限に抑えられます。

社会保険労務士・行政書士 松元事務所でも派遣業を営む事業者のために「相談顧問サービス」をご用意しています。月額20,000円~で専門家に相談できるサービスですので、ぜひご活用ください。まずはホームページからのお問い合わせをお待ちしております。

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