日本国内で「有料職業紹介」を行う場合、通常は「日本に在住する日本人」「日本に在住する外国人」を紹介します。
すでに日本に在住しており、なおかつ「就労できる在留資格」を保有していれば、外国人を対象にした職業紹介も可能です。
しかし特定技能の在留資格を活用する場合、職業紹介する時点においては外国に在住しており、採用が決まってからビザを取得して来日する流れになります。
このような形態で職業紹介事業を実施する場合には、通常の職業紹介の許可だけではなく、追加の手続き・書類が必要です。
この記事では、「海外在住の外国人」に「日本での仕事」を紹介する事業を行うためには、職業紹介の許可に加えどのような手続き、書類が必要なのか解説します。
通常の「職業紹介の許可」では海外在住の外国人を紹介できない
通常の手続きで職業紹介の許可(有料職業紹介事業許可)を取得した場合、それは日本国内に在住している方を紹介することが許可されているのみで、外国在住者を紹介することは許可されていません。
特定技能外国人材を含め、国外にいる外国人材の紹介業務を実施するためには、新たに「国外にわたる職業紹介」の許可を受ける必要があります。
「国外にわたる職業紹介」の許可基準
「国外にわたる職業紹介」の許可を受けるためには、多岐にわたる基準を順守しなければなりません。
まず、「国外にわたる職業紹介」についての届出には、職業紹介を実施する国についても記載します。この届出をした国以外を相手先国として、職業紹介を実施することはできません。相手先国が複数にわたる場合も、すべての国をしっかりと届出ましょう。
あわせて、職業紹介を実施する際は、日本の入管法はもちろん、相手先国の法令も遵守する必要があります。
また、外国在住の求職者から、日本への渡航費用について相談されるかもしれません。しかし求職者に渡航費用を含む金銭を貸し付けたり、求人者が金銭を貸し付けた求職者に対して職業紹介することも禁止されています。
「海外在住の外国人」に「日本での仕事」を紹介する場合、ほとんどのケースで”取次機関”を利用することになるでしょう。(取次機関とは、相手先国の職業紹介事業者のことです)この取次機関にもいくつか禁止事項があるため注意してください。
第一に、相手先国において活動を認められていない取次機関は利用してはなりません。「保証金」などの名目を問わず求職者の財産を管理したり、違約金など不当な財産移転を契約していたり、求職者に渡航費用などの金銭を貸し付けたりしている取次機関も利用してはならないとされています。これら取付機関の状況については、届出の際にもいくつか書類が必要となるため、しっかりと把握しておきましょう。
なお、取付機関からのみならず、職業紹介に関して求職者が財産を管理されていたり、不当な財産移転の契約を結ばされていることを認識したまま職業紹介を実施することも禁止されています。
難しく感じるかもしれませんが、「法令遵守」と「求職者の権利の保護」を念頭に置いておきましょう。さらに具体的にはどのようなポイントを順守すべきか気になる場合は、社会保険労務士などの専門家に相談してみてください。(社会保険労務士・行政書士 松元事務所でも相談を承っております)
「国外にわたる職業紹介」を開始する方法
それでは、「国外にわたる職業紹介」を開始する方法について見ていきましょう。
すでに「有料職業紹介事業許可」を受けている場合には、「変更に関する届出」を提出することになります。
この届出の期限は、変更の事実が発生した日の翌日から起算して10日以内(職業紹介責任者の氏名・住所の変更は30日以内)です。
「変更に関する届出」を出すだけなら簡単だと感じるかもしれません。しかし「国外にわたる職業紹介」のための「変更に関する届出」は添付書類が多く、準備が非常に大変です。このあと必要書類についても紹介しますが、基本的には専門家のサポートを受けたほうがいいでしょう。
「国外にわたる職業紹介」の届出に必要となる書類
「国外にわたる職業紹介」の届出に必要となる書類は、取付機関の利用有無によって異なります。
取次機関を利用する場合 | 取次機関を利用しない場合 |
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職業紹介事業取扱職種範囲等届出書(様式第6号)
相手先国の関係法令(※) |
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・取次機関に関する申告書(様式第10号)
・取次機関および事業者の業務分担について記載した契約書など(※) ・相手先国において、当該取次機関の活動が認められていることを証する書類(許可証の写し等)(※) |
相手先国において事業者の活動が認められていることを証明する書類(※) |
表中の※書類については、日本語訳も必要となります。
基本的には取次機関が必要となるケースが多いでしょうから、取付機関と協力しつつ、書類を集めていきましょう。自社の海外法人を取付機関とすることも可能です。(もし自社のホームページを見て、海外在住の人材から求人紹介の依頼が来たとしても、基本的には取付機関を通す必要があります)
なお、相手先国によっては、「職業紹介業」が法制化されていないこともあります。このような場合には、その国の法律に詳しい日本の弁護士に、「相手先国に職業紹介業に類する法律が存在しない」ことを証明してもらうことで、職業紹介を実施できます。
「国外にわたる職業紹介」を実施する際の留意事項
さて、「国外にわたる職業紹介」を実施する際には、事業者として留意すべき事項もいくつか存在します。トラブルなく職業紹介事業を続けるためにも、下記のポイントは抑えておきましょう。
- 求職者の早期離職などに関する留意事項
- 求職の受理に関する留意事項
- 相手国の送り出し手続きに関する留意事項
それぞれ詳しく紹介します。
求職者の早期離職などに関する留意事項
職業紹介事業者は、紹介した求職者が早期に離職することのないよう、次の点を順守することとされています。
- 自らの紹介により就職した者に対して、就職した日から2年間は、転職勧奨を行ってはならない(無期雇用契約を締結した者に限る)
- 手数料については返戻金制度を設けることが望ましい
- 受理する手数料については、求職者・求人者双方に明示する(一部の例外を除き、求職者からの手数料徴収は職業安定法において禁止)
- 求職者の勧誘に際して、金銭を支給(お祝い金など)は望ましくない
これら順守事項は、特定技能外国人材に関する職業紹介を実施する際も守らなければなりません。
求職の受理に関する留意事項
外国人材からの求職申込みに当たっては、同意を得られる範囲で「在留カード」などの提示を求め、不法就労を斡旋することがないよう注意しましょう。
とくに「求職者が適正な在留資格を保有している」「求職者が在留期間内である」「紹介先が在留資格で認められた範囲内である」といったことは要確認です。
より具体的には、在留カード表面の「就労制限の有無」欄において、下記いずれかの記載があるかを確認します。
- 就労制限なし
- 在留資格に基づく就労資格のみ可
- 指定書記載機関での在留資格に基づく就労活動のみ可
- 指定書により指定された就労活動のみ可能
もし「就労不可」の記載だとしても、裏面の「資格外活動許可欄」に「許可」の記載がある場合(留学生)には、日本国内での就労が認められています。
出入国在留管理庁のホームページなどを定期的に確認し、適法な範囲で職業紹介を実施するようにしましょう。
相手国の送り出し手続きに関する留意事項
相手先国(送り出し国)によっては、法令で「送り出し手続き」が定められていることがあります。
特定技能の在留資格において、相手先国で所定の手続きがある場合は、それを経ていることも要件の一つとされているため、必ず確認してください。
相手国政府が取次機関を認証することになっている場合や、現在締結が進められている二国間取決めによって「遵守すべき手続」が定められている場合もあります。「国外にわたる職業紹介」を実施する場合には、定期的に出入国在留管理庁のホームページを確認することが必要です。
その他の留意事項
ここまで紹介した事項以外にも、いくつか留意点が存在します。
まず、「国外にわたる職業紹介」では、たとえ求人者(企業側)に求職者を紹介したとしても、求職者が在留資格を取得できない可能性があります。在留資格がなければ、当然就労はできません。もし手数料を払ったにも関わらず外国人材が働けないとなると、求人者とトラブルになる可能性もあります。
トラブルを防ぐためにも、手数料の支払いタイミング・金額などはあらかじめ求人者と認識をあわせておきましょう。
また、特定技能については、各分野ごとに「協議会」という組織が設置されています。これは分野所管省庁・受入れ機関・業界団体などで構成された、制度情報の周知・法令遵守の啓発などをおこなっている団体です。
この協議会において、特定技能の受入れ状況などを踏まえ、大都市圏への集中回避に関する対応策(引き抜きの自粛要請など)が定められています。このような規定を遵守することも必要であるため、紹介する業種によって、該当する協議会の情報も確認しておきましょう。
まとめ
「海外在住の外国人」に「日本での仕事」を紹介する事業を行うためには、職業紹介の許可に加え、「国外にわたる職業紹介」の許可を受ける必要があることをお分かりいただけたでしょうか。
「国外にわたる職業紹介」を届け出るためには、「相手先国の関係法令」「取付機関と交わした契約書」などを、日本語訳とあわせて用意しなければなりません。これら書類を不備なく用意することは、専門家でなければ難しいでしょう。
スムーズに「国外にわたる職業紹介」を開始するためにも、添付書類の用意・各種手続きについて、社会保険労務士・行政書士などの専門家に依頼することをご検討ください。
社会保険労務士・行政書士 松元事務所でも「国外にわたる職業紹介」を開始するための相談を承っています。外国人に日本での仕事を紹介したいと考えている大阪府・兵庫県・京都府・奈良県など近畿圏の事業者様は、ぜひお気軽にご連絡ください。