平成27年9月30日の労働者派遣法改正により、労働者派遣事業は特定派遣事業(届出制)と一般派遣事業(許可制)の区分がなくなり、許可制に一本化されました。
許可制への一本化に伴い、労働者派遣事業の許可基準が厳しくなりました。結果として、許可申請を却下される企業が改正前に比べて増えています。
そうした状況を踏まえ、本記事では、労働者派遣事業の許認可で豊富な経験を持つ社会保険労務士が、派遣会社を作るために押さえたい許可要件について、1問1答形式で解説します。
Q:労働者派遣事業の許可を受けるうえでは、どのような要件をクリアする必要がありますか?
A:労働者派遣事業の許可を受けるためには、次の4つの要件をクリアしなければなりません。
- その事業がもっぱら労働者派遣の役務を特定の者に提供することを目的として行われるものでないこと
- 申請者が、その事業の派遣労働者に係る雇用管理を適正に行うに足りる能力を有するものとして厚生労働省令で定める基準に適合するものであること
- 個人情報を適正に管理し、派遣労働者の秘密を守るために必要な措置が講じられていること
- その事業を的確に遂行するに足りる能力を有するものであること
許可基準は、労働者派遣法第7条に規定された上記4つの要件だけではありません。4つの要件に枝分かれする形で、キャリア形成支援制度や財産的基礎に関する判断などがあります。
とても大変ですが、これらの基準をすべて充足したうえで、欠格事由(法第6条)に該当していなければ、厚生労働大臣の許可を受けられます。
Q:複数の要件のうち、特に押さえたい許可要件は何ですか?
A:特に押さえたい判断は、次の4つの要件ですね。
- キャリア形成支援制度
- 派遣元責任者に関する判断
- 財産的基礎に関する要件
- 事業所に関する判断
いずれの許可要件もクリアするためには、専門的な知識が求められます。
Q:キャリア形成支援制度に関する要件はどのようなものでしょうか?
A:キャリア形成支援制度は、次の要件を満たさなければなりません。
- 派遣労働者のキャリア形成を念頭に置いた段階的かつ体系的な教育訓練の実施計画を定めていること
- キャリアコンサルティングの相談窓口を設置していること
- キャリア形成を念頭に置いた派遣先の提供を行う手続が規定されていること
- 教育訓練の時期・頻度・時間数など
- 教育訓練計画の周知など
上記5つの要件のうち、労働者派遣事業者、派遣労働者の双方にとって重要だとされているのが、キャリアコンサルティングの相談窓口の設置です。
Q:キャリアコンサルティングの相談窓口を設置するにはどうすればよいでしょうか?
A:キャリアコンサルティングの相談窓口を設置するには、専任担当者の配置が求められます。
専任担当者は必ずしも国家資格のキャリアコンサルタントの有資格者でなくとも構いません。ただし、3年以上の人事担当の職務経験をはじめ、キャリア・コンサルティングの経験が必要です。
なお、キャリアコンサルティングは、必ずしも常時行わなければならないわけではありません。例えば、毎週2回の定期実施や派遣労働者の希望に応じた臨時実施で対応することも可能です。
Q:派遣元責任者とキャリア・コンサルタントの兼務は可能でしょうか?
A:派遣元責任者とキャリア・コンサルタントの兼務は可能です。
つまり、理論上はキャリア・コンサルタントを兼務した派遣元責任者と、職務代行者の計2名がいれば、派遣会社は設立できますね。
Q:派遣元責任者に関する判断はどのようなものでしょうか?
A:派遣元責任者に関する判断は、次の要件を充足しなければなりません。
- 派遣元責任者として雇用管理を適正に行い得る者が所定の要件と手続に従って適切に選任、配置されていること
- 派遣元責任者が不在の場合の臨時の職務代行者があらかじめ選任されていること
このうち、派遣元責任者の選任、配置にかかる①の要件については、次のような要件を満たさなければなりません。
- 派遣元責任者の業務に専任できること
- 3年以上の労務管理経験があること
- 3年以内に、派遣元責任者講習を受講していること
派遣元責任者には、派遣労働者に苦情その他の問題が発生した場合に、迅速な解決を図ることが求められますので、派遣元での常勤性が必要です。そのため、非常勤の方や、他の会社の社員・役員として働いている方は、原則として派遣元責任者になれません。
ただし、代表取締役の方自らが派遣元責任者になれるほか、誰かを雇って派遣元責任者として働いてもらうことも可能です。その点、柔軟な運用ができますね。
派遣元責任者講習については、公益社団法人労務管理教育センターや一般社団法人日本人材派遣協会などの機関によって、ほぼ毎日のように実施されています。受講費用9,000円、所要時間約1日と敷居も高くありません。
Q:そもそも派遣元責任者とは、どのような職務を担う人でしょうか?
A:派遣元責任者は、その名の通り、派遣元の責任者として次のような業務に従事します。
- 派遣労働者に対する必要な助言と指導
- 派遣労働者から申し出を受けた苦情の処理
- 派遣労働者に関する個人情報の管理
- 派遣労働者への教育訓練の実施と職業生活の設計に関する相談の機会の確保
- 派遣先との連絡調整
- 安全衛生に関すること
- 派遣元台帳をはじめ、派遣業務に必要な書類の作成や管理
Q:要件クリアに必要な職務代行者はどのような職務を担うのでしょうか?
A:職務代行者は、簡単にいえば、派遣元責任者が不在の時の代行者です。基本的には派遣元責任者が担う職務を代行してくれるとイメージしてよいでしょう。
職務代行者については特に資格や要件はありません。ただし、雇用保険の被保険者であることが必須であることから、「週に1日だけの非常勤」や「短時間勤務のパートタイマー」といった方は代行できませんので、注意が必要です。
Q:財産的基礎に関する判断はどのようなものですか?
A:財産的基礎に関する判断は、次の要件を満たさなければなりません。
- 基準資産額が2,000万円以上であること(事業所数が1増えるごとに、プラス2,000万円)
- 上記の基準資産額が負債総額の7分の1以上であること
- 現預金が1,500万円以上(事業所数が1増えるごとに、プラス1,500万円)
労働者派遣事業の許可を受けるうえでは、これらの要件を直近の決算書で満たすことが必要です。この要件を充足すれば、派遣労働者に給与を支払ったり、社会保険料や労働保険料を支払ったりする資力があると認められます。
Q:基準資産額とは何ですか?
A:基準資産額は、資産から負債を引いた額です。厳密には、貸借対照表から以下の式を用いて求められます。
- 基準資産額=資産総額-負債総額-繰延資産-営業権(のれん)
なお、現金や売掛金などの資産が2,000万円以上あっても、借入金などの負債が多ければ、資産要件を満たせない可能性があります。つまり、派遣会社設立に際して、融資を受けすぎてもダメであり、申請の段階で、ある程度の現預金のほか、不動産や什器といった資産が必要なわけです。
Q:要件を満たすためにはどうすればよいでしょうか?
A:財産的基礎に関する要件を満たすためには、次のような方法があります。
- 新たに要件を満たす会社を設立する
- 資本金を増資する
- 融資を受ける
- 次の決算まで待つ
- 公認会計士の証明を受けて、中間決算を行う
財産的基礎に関する要件の充足は、5年に1度(新規許可の場合は開業から3年後)訪れる許可更新の際も求められます。そのため、自社の経理担当者や顧問税理士の協力を得て、常に要件を満たしているかをチェックしておかなければなりません。
Q:事業所に関する判断はどのようなものでしょうか?
A:事業所に関する判断は、次の要件を満たさなければなりません。
- 風営適正化法で規制する風俗営業や性風俗特殊営業などが密集するといった事業の運営に好ましくない位置にないこと
- 労働者派遣事業に使用し得る面積がおおむね20㎡以上あること
厚生労働省と都道府県労働局が明示する許可基準に記載されていませんが、事業所が賃貸の場合は、貸主が派遣事業を営むことを了承していることが必要です。
貸主による了承を証明するうえでは、賃貸借契約書の使用用途に「労働者派遣事業所として使用する」といった文言を追記してもらうか、貸主に使用承諾書を作ってもらいましょう。
このように、派遣業をスタートする場合、様々な要件をクリアし、また申請ではクリアしていることを証明できる資料の提出が必要となります。
ご自身で準備するのが難しい、不安だ、という方は、ぜひ当事務所へご相談ください。
初回のご相談は無料ですので、まずはお電話・メール・ライン等でお気軽にお問い合わせください。