これから労働者派遣事業を始める方は、派遣法について一通り理解しておいたほうが安心でしょう。派遣業・派遣法がどのような歴史を辿って今に至るのか知ると、全体像を理解しやすいかもしれません。
この記事では派遣法が誕生してから規制緩和〜規制強化がどのような流れで進んだのか、歴史を紐解いていきます。派遣業・派遣法がなぜ現在のような制度となっているのか知るためにも、ぜひ最後までご覧ください。
派遣業・派遣法とは
まずは前提として、派遣業・派遣法の概要について説明します。
そもそも派遣業(労働者派遣事業)とは「派遣元事業主が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために労働に従事させることを業として行うこと」とされています。
(参考:厚生労働省)
派遣労働者を雇用しているのは「派遣元」ですが、派遣労働者に指揮命令するのは「派遣先」ということです。単純な会社員と比べると、複雑な関係といえるかもしれません。
このような形態にある派遣労働者を保護するための法律が「労働者派遣法(派遣法)」です。
かつては正式名称が「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」でしたが、2012年に「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に改正されたとおり、派遣労働者を保護することが重視されています。
企業はこの派遣法を順守しなければならないとされており、もし違反すると行政処分が科せられることもあるため、ポイントをしっかりと押さえておきましょう。
派遣業・派遣法の変遷
それでは派遣業・派遣法がどのような変遷を経て現代に至るのか、時系列順に見ていきましょう。大まかな流れは次のとおりです。
- 1986年|労働者派遣法の施行・特定16業種の派遣が可能に
- 1996年|対象が26業務に規制緩和
- 1999年|対象業務がネガティブリスト化
- 2000年|紹介予定派遣が解禁
- 2004年|製造業務への派遣解禁
- 2004年|26業務への派遣期間が無制限に
- 2006年|医療関係業務の一部で派遣解禁
- 2007年|製造業務への派遣期間が最長3年に延長
- 2012年|派遣法が改正され規制強化の時代へ
- 2015年|派遣期間の上限が原則として一律3年となるなど規制強化
- 2015年|「特定派遣」が廃止。許可制の「一般派遣」に一本化
- 2020年|同一労働同一賃金が開始
それぞれ詳しく解説します。
~1986年|派遣法ができるまで
前段として、派遣法ができるまでの日本における事情を紹介します。
「必要な人に労働力を提供してほしい」というニーズは古くから存在するため、派遣業のようなビジネスモデルは江戸時代から存在していました。ただし「派遣業」という名称ではなく、「人貸し」「組請負」などと呼ばれる労働力供給業者が労働者を手配していたといわれています。
しかし、やはり雇用関係が曖昧で、責任の所在もはっきりしなかったため、派遣される労働者が不当に扱われることも珍しくありませんでした。そのため1947年公布の「職業安定法第44条」により、このような「労働者供給事業」は原則として禁止されたのです。
これに伴い、いわゆる「派遣」という形態ではなく、「業務請負」で労働力が供給がされる時代が続きます。(業務請負は現代でもよく見られる契約形態です)
1986年|労働者派遣法の施行・特定16業種の派遣が可能に
ビジネス環境が変化するなか、「一時的に専門知識・技術を持った労働力がほしい」という機会が増えていきました。あくまでも一時的なニーズであるため、「新卒一括採用・年功序列・終身雇用」という日本型のシステムでは対応できないことが難点です。
このような時代背景をうけ、禁止されていた労働者供給事業から、「派遣」のみが合法化されました。派遣業・派遣法の誕生です。
先述したとおり派遣は「派遣元事業主が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のために労働に従事させる」というモデルです。雇用関係・責任の所在が曖昧な労働者供給事業とは一線を画すモデルだといえるでしょう。
そして1986年、特定16業種の人材派遣が認められるに至ります。(派遣法成立当初は13業務のみが認められていましたが、施行後直ちに3業務が追加されたため、16業種での派遣が可能となりました)
1996年|対象が26業務に規制緩和
バブル期の経済成長に伴い、労働力需要も高まっていきました。しかし1991年のバブル崩壊に伴って正社員雇用を見直す企業が増加し、結果として「派遣」へのニーズも増していきます。
このような時代背景を鑑み、1996年に派遣適用対象に10業務が追加されました。これまでの16業務とあわせ、「26業務」で派遣が可能となったのです。
派遣が可能な26業務が指定され、それ以外は派遣が禁止されているため、この時代の派遣ルールは「ポジティブリスト方式」と呼ばれています。
1999年|対象業務がネガティブリスト化
1999年にはさらに規制緩和が進み、特定の業務のみは禁止とされる「ネガティブリスト方式」へと大きく転換します。
特定の業務のみ派遣禁止ということは、それ以外の業務は自由に派遣できるということです。これをもって、派遣可能な業種が原則自由化されました。
なお、このとき引き続き派遣が禁止され続けた業務の代表例は次のとおりです。
- 港湾運送業務
- 建設業務
- 警備業務
- 医療関係業務
- 製造業務(物を製造する業務)
この自由化を機に、人材派遣業者が増え始めたことも特徴です。
2000年|紹介予定派遣が解禁
2000年には「紹介予定派遣」が解禁されます。
これは派遣契約期間が終了したタイミングで合意があれば、雇用形態を「派遣」から「直接雇用」に切り替えられる方式です。
直接雇用前に企業と労働者の相性が分かるため、お互いにミスマッチを防ぐ効果が期待されました。
2004年|製造業務への派遣解禁
2004年にはネガティブリストに含まれていた「物の製造業務」への派遣も解禁されました。
派遣期間は最長1年とされましたが、ニーズの高かった製造業分野に派遣が解禁されたことで、人材派遣業への注目も高まります。
2004年|26業務への派遣期間が無制限に
おなじく2024年、「政令26業務(専門26業務)」と呼ばれる業務に設けられていた「派遣期間制限」が撤廃されます。
ソフトウェア開発や機械設計、秘書、財務処理など専門性の高い26業種では、派遣期間が無制限になったということです。
専門性の高い業務は派遣期間の上限(3年ルール)で人材が入れ替わると支障が生じることもありましたが、この規制緩和により、企業がより派遣を活用しやすくなったといえるでしょう。(なお後述しますが、現在ではこの無制限のルールは廃止されています)
2006年|医療関係業務の一部で派遣解禁
2006年には、ネガティブリストに含まれていた「医療関係業務」の一部でも派遣が解禁されました。
引き続き規制緩和が続き、派遣を活用できる企業が増えていきます。
2007年|製造業務への派遣期間が最長3年に延長
2007年には、これまで最長1年間だった製造業務への派遣期間が、最長3年にまで延長されました。受け入れ企業にとっては、より派遣を活用しやすくなったといえるでしょう。
2012年|派遣法が改正され規制強化の時代へ
1986年の派遣法施行から2007年までの規制緩和によって、派遣業は企業側に有利な制度となっていったといえるでしょう。
しかし2008年のリーマン・ショックによる世界的な不況を機に「派遣切り」「雇止め」、さらには「違法行為」など、派遣労働者側が蔑ろにされる行為が社会問題となるまで横行します。2008年末には「年越し派遣村」などが報道されるなど、大きな注目を集めました。
そして2012年、記事冒頭でも触れたとおり、派遣法は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」から「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」へと改正されます。
この改正では労働者の権利保護・雇用安定化を目的に、次のような規制が設けられました。
- 日雇い派遣は原則禁止
- グループ企業派遣の規制(人件費削減を目的とした派遣子会社の設立抑制)
- 離職後1年以内の労働者の派遣受け入れ禁止(人件費削減を目的に、同一労働者を直接雇用から派遣へ切り替えることを阻止)
ここから派遣法は、規制強化の時代に転換します。
2015年|派遣期間の上限が原則として一律3年となるなど規制強化
派遣期間が無制限とされていた業務もありましたが、「そもそも派遣は臨時的・一時的なものである」という考えのもと、派遣期間の上限が原則として一律3年と規制強化されました。
これによって、本来は正社員が対応する業務を、常習的に派遣社員が対応する「常用代替」が防止されます。
2015年|「特定派遣」が廃止。許可制の「一般派遣」に一本化
おなじく2015年、「特定派遣」が廃止され、許可制の「一般派遣」に一本化されたこともポイントです。
実はこのときまで、派遣業を始めるパターンは次の2つがありました。
- 特定派遣(特定労働者派遣事業):小規模・小資金なら届を出せば開始できる(届出制)
- 一般派遣(一般労働者派遣事業):さまざまな基準を満たして許可を受けると開始できる(許可制)
2015年の改正では派遣業界全体を健全化すべく、新たな許可基準による「許可制」のみに一本化されたのです。
現在、労働者派遣事業の許可を受けるためには、次のような要件を満たしていなければなりません。
- 資産要件を満たしている
- 法人の目的に「労働者派遣事業を行うこと」が登記されている
- 刑事罰など欠格事由に該当しない
- 特定企業に対してのみ派遣事業を行う目的ではない
- 派遣事業を適正に遂行できる能力がある
- 適切な雇用管理がなされている
上記は一例であるため、他にも満たすべき条件はあります。そして現在では特定派遣の要件(少ない資金など)では開業できませんし、一本化する前の猶予制度も適用できません。
労働者派遣事業を開始しようと思っている方は、適切な要件を社会保険労務士に相談することをおすすめします。
2020年|同一労働同一賃金が開始
「働き方改革」の一環として、2020年には「派遣労働者の不合理な待遇差」を解消する動きが進みます。いわゆる「同一労働同一賃金」です。
これにより、派遣元は次のいずれかによって派遣労働者の賃金を決めることが義務付けられました。
- 派遣先均等・均衡方式:「派遣労働者」の賃金を「派遣先の通常の労働者」と均等・均衡するように決める
- 労使協定方式:労使協定で賃金を決める(一般労働者の平均的賃金と比較して同等以上としなければならない)
派遣法の要件は年々厳しくなっているため専門家に相談を
派遣法は時代背景にあわせ、さまざまに変遷してきました。そして2012年を境に規制強化が進み、今では派遣業を始めるための要件は非常に厳しくなっています。いまではすべて「許可制」となっているため、派遣業を開始したい場合はあらかじめ専門家に相談したほうが安心です。
なお、労働者派遣法に基づく届出や申請は、社会保険労務士の「独占業務」です。資格のない業者に依頼してしまうと、要件を満たさないまま申請することになり、結果として許可を受けられないこともあります。派遣法に関する悩みは”社会保険労務士”へ相談してください。
社会保険労務士・行政書士 松元事務所も大阪府・兵庫県・京都府・奈良県を対象に、「労働者派遣事業許可サポート」を提供しています。労働者派遣事業許可に詳しい社会保険労務士に相談したい方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。